偽善者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど。【ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT 感想】

コスモスの総括を書くにあたって観ておかねばならないと思い先日数年ぶりに視聴したが、記憶以上に酷い映画だったので単体で記事を上げようと思う。



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↑サムネ用に拾ってきた適当な画像


・相変わらずの独善性

コスモス本編にも言えることだが、この作品は予めキャラクターに善悪が決められている。
なので「どんな行動をしたか」ではなく「誰が行動をしたか」で善悪が決まってしまう。
善とされるキャラクターは役割が「善」なのでどんな行動をしても咎められないし、咎められたとしても咎めた側を「悪」として描くのがこの作品の傾向だ。
キャラクターたちはその役割によって動くだけの「脚本の傀儡」でしかない。キャラクターが生きていないのだ。

善とされるキャラクターは耳障りのいい言葉ばかり口にし、まさに「偽善者はいつも文句だけは美しい」という言葉がよく似合う。

悪とされるキャラクターは表面的な態度やサングラス等の服装などで浅い印象操作がされる。

特に顕著なのが「国家緊急部隊シャークス」およびシゲムラ参謀。人間の生活をを守るために戦う防衛軍で特に権力を持っている部署の参謀である彼は何故かこの作品では徹底して「悪役」として扱われている。

彼およびシャークスの作中での行動は
・怪獣ドンロンを攻撃する
・ムサシから輝石を奪う
・SRCが眠らせたバルタン星人を攻撃する
・コスモスを攻撃しようとする(春野巡査部長に殴られ、ムサシとクレージーゴンによってコントロールシステムを破壊されたので未遂)

というものである。確かに最後の二つは戦犯的な行動かもしれない。しかし一度冷静になり、シゲムラの立場になって考えてみよう。
ドンロンもバルタン星人も普通に考えて人類にとって脅威でしかなく、SRCはプロである自分たちからしたら素人のお遊び集団、ウルトラマンコスモスと関係があると思われる輝石は研究価値がある上に子供に持たせるにはあまりにも危険、そしてコスモスはあの時点では「ウルトラマンであるという確証がない単なるET*1」である。

視聴者や作中の人物たちはシゲムラ参謀を責められるだろうか?
SRC隊員やムサシは作中で無条件で肯定されるほどの人間なのだろうか?

まずSRC所有の航空機「トロイ」は玩具のようなポップで可愛いデザインをしているが、ドンロンの顔を歪めるくらい強いパンチ攻撃や一瞬動きを止めるくらいの高出力の冷凍ガスを発射することが出来る。
これは立派な「武装」であり軍以外が所有するにはあまりにも危険だが、SRC隊長アカツキと同期のシゲムラは超寛大な心で行動を黙認している。

さっきも言ったようにSRCやムサシ、その友人達はシャークスのプロフェッショナルからすれば素人でしかない。
なのに子供たちはシャークス隊員の仕事の邪魔し続けるし、マリ(に憑依したチャイルドバルタン星人)は輝石を盗むし、春野巡査部長は「大人なら子供の言ってる事くらい信用しろ」と感情論丸出しで生意気にもシゲムラを殴る。
しまいにはムサシはシャークス指令車のコンピューターを破壊してしまう。
ここまで言えばわかるでしょう。このガキ共と保護者は正真正銘の犯罪者です。少年法で守られた子供はともかく春野巡査部長は間違いなく処分が下るはずだ。彼らに制裁を下さない世界の司法ははっきり言って異常だ。

シゲムラ、作中のみんながお前を責めても俺はお前のことを労うよ。お前は市民を守る正義の味方の指揮官としてよく頑張ってくれた。

本当にありがとうございました。

 


・バルタン星人にかけられた「呪い」

本作はウルトラマン第2話「侵略者を撃て」で知られる飯島敏宏さんが監督・脚本をしている。*2
今回のバルタン星人は冒頭でコスモスとの激闘の果てに地球に落下。
中盤で活動を再開した後は怪獣ドンロンを目覚めさせ暴れさせ、TV放送をジャックし移住を宣言する。
当然シャークスは市民の命と生活を守るために戦闘機をバルタン星人の宇宙船「廃月」に攻撃する。
シャークスの攻撃に激怒したバルタン星人は実力行使に出る。復活したコスモスと再戦するが、ここの特撮は本当にレベルが高い。
お互いに力をぶつけ合いコスモスが勝利すると、バルタン星人は無様にも涙を流し自害する。
どうやら過激派はこいつだけのようで、チャイルドバルタンをはじめ廃月にいた多くのバルタン星人は共存を望む穏健派だったらしい。


は???


この駄作を作った低脳とAタイプ編屈指の名作「侵略者を撃て」を作った偉大なる名監督が同一人物だとは到底思えないが、事実は小説よりも奇なり。悲しい現実だ。

確かにバルタン星人は初代の時点で母星を失った可哀想な宇宙人かもしれない。しかし「我々は地球を貰う」という姿勢をとったためにウルトラマンに全滅させられた。
「侵略者を撃て」というタイトル通り地球を奪おうとする侵略者を撃破した。当然の結果である。

繰り返すが今回のバルタン星人は殆どが穏健派であり過激派は実力行使に出たあの一人のみ。

過激派バルタン星人はシャークス同様に共存しようという意思のない愚かな大人代表で、チャイルドバルタンやムサシの友人達こそ「真の勇者」らしい。バカバカしい。飯島、お前のプロパガンダウルトラシリーズ屈指の名キャラクター・バルタン星人を使わないでくれ。

子守唄ミュージカルのシーンはもう共感性羞恥モノだが、音楽によって沈静化するのは後のダークバルタンを思わせる。
そして、本作以降にバルタン星人が登場したのはウルトラマンマックス第33-34話「ようこそ!地球へ前後編」が最初で最後である。飯島が私物化しているのだ。
長くなるので視聴している前提で割愛するが、ダークバルタン*3は実力でウルトラマンマックスに完全勝利し、子供のバルタン星人「タイニー」に説得され宇宙へ帰った。
ウルトラマンも人類も結局最後まで勝てず、身内同士のしょうもない説得で決着が着く最低の茶番がバルタン星人のウルトラシリーズ最後の活躍である*4


マックスでバルタン星人回を担当した際には
「バルタン星人は今よりも科学や経済が発達した人類の未来の姿を映した反面教師であり、悪役として描かれた後発のバルタン星人については認めていない」
というコメントを「ウルトラマンマックス!怪獣大画報」という書籍で残している。

これが「呪い」で無ければなんだと言うのか?

飯島、聞け。何度も地球に挑戦しに来た「侵略者」バルタン星人はみな魅力的であった。
造り手のお前の手から離れてからも勝手に動き出し様々な魅力的な個体が登場したんだ。
人の脳を借りなければ日本語が喋れなかった種族でありながら、「帰マン」に登場したジュニアは地球欲しさと人類に憎しで頑張って日本語と野球のルール*5を覚えてきた。
「ザ✩」ではテレビ局を利用しウルトラマンの秘密を盾にヒカリ隊員に迫る策士。
「80」では可愛い豚鼻で、個性的な作戦と激しいアクションと必殺光線でウルトラマン80を苦しめた。
「パワード」ではベムラーゼットン星人などと役割が統合され歴代バルタン以上に「宿敵」としての魅力が色濃くなった。
これがお前が認めていない後発のバルタン星人の魅力だ。

しかし、コスモスとマックスのバルタン星人にはそんな魅力はなく、前述の呪いのせいでウルトラマン40周年記念作品である「メビウス」にはついに登場できなかった。

飯島さん、「死ね」なんて言うつもりはありませんが、早くこの呪いを解いてください。

 


・世界観がメッセージ性を邪魔している

私怨で熱くなってしまって少々恥ずかしいが、もう一度評論に戻ろう。
この作品は主題歌にもあるように「夢を追いかけて全てが変わる」という事をメインテーマにしている。
この言葉は裏を返すと「夢は見るのではなく追いかけ努力しなければ何も変わらない」という意味になる。
まあ上述の通り主人公マンセー作品なのでかなり強引でご都合主義なところがあるが、やりたい事はわかる。

コスモスに光を当てて復活させるシーンや輝石を奪い返しウルトラマンを呼び出すシーンは
ウルトラマンティガ」最終回に向けた「ガキが祈ったくらいでウルトラマンは生き返らねえんだよ、バーーーーーカ!」
というカウンターだと思える*6

夢を追うにあたり現実という壁にぶち当たりそれを乗り越えるために頑張って…みたいな事がやりたかったんだろう。
だが、本作の現実とは程遠いファンタジーな世界観がそれを邪魔している。

本作のウルトラマンはサンタクロースのようなおとぎ話の存在として人々に認知されており、その実在を信じているのはムサシ少年のみであり、「ウルトラマンと会った」と主張し周りにバカにされるシーンがある。

しかし、バルタン星人を眠らせるためにトロイのスピーカーで子守唄を流すシーンで大合唱始めるような頭お花畑のパッパラパーのディズニーの上辺だけなぞったような民衆だらけの世界なら、ウルトラマンぐらいいるだろ。

こんな世界観だから、同級生や家族の「まだウルトラマンなんて信じてるのか」という言葉に説得力がない。

 

 


・まとめ

薄っぺらなメッセージ性は世界観に阻まれ、防衛軍はヘイト枠と化し、バルタン星人は飯島さんのオナニーに使われ、キャラクターは最初から決められた善悪という役割のもとに動く「生きていない」存在であり「脚本の傀儡」。
ニュージェネ以前の映画では間違いなくワースト3に入るであろう「駄作」だ。*7
私はこの作品を好きな人を軽蔑するし、作ったスタッフには憎しみすら抱いています。

 


俺達のバルタン星人返せよ

いや、マジで。

 

*1:春野巡査部長がドンロンを見た際「あれがウルトラマンか?」と言っていた事からわかるようにウルトラマンの姿は知られていない

*2:千束北男は飯島の別名義

*3:マジで強い。バルタン星人の中で、とかではなく超巨大化能力や分身などの超能力を見るに全ウルトラ怪獣の中でも最強と言っていい。グリーザやガタノゾーアは結局倒されてしまったので最後まで倒されなかったダークバルタンは格が違う。人類とウルトラマンの力の前に負けてしまった雑魚どもと違って最強の怪獣だ。もちろん皮肉で言ってる

*4:大怪獣ラッシュのバルタンバトラー・バレルはバルタン星人最後の生き残りらしいが、勝手に滅ぼしてんじゃねーぞ

*5:勝負はまだ一回の表だ

*6:だが当のティガは第25話で完全上位互換のような熱い展開をやっているし、そもそもティガの最終回は「人事を尽くして天命を待つ」の極致なのでTFC如きがカウンターできるような作品ではない

*7:腐っても飯島佐川なので映像面はかなり気合が入っているので間違ってもTV本編のような「作品未満」まではいかない。ギリギリで保っている