キラ・ヤマトという男

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「不殺を貫く」と言われたり「不殺ではない」と言われたり公式の媒体の中ですら解釈が割れるキラ・ヤマトという男。

劇場版「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の公開が三ヶ月後に迫る今こそ、この辺の線引きはハッキリさせておきたい。

もちろん私個人の意見なので公式設定でもなんでもないし読んでくれている皆様は決して鵜呑みにしないで欲しい。

まず前提として、ほとんどのガンダム主人公は「なるべく殺したくない」「でも戦争だから仕方なく殺してる」というスタンスを取っている。*1

アムロは「相手がザクなら人間じゃない」と自己暗示をかけ*2カミーユは「俺に出来る事と言ったら人殺しだけみたいだな」と自虐しているし、ベルリは「人が見えたら撃てないでしょ」と言っている。

しかしキラだけが「不殺主人公」として(主にネガティブな方向で)話題になるのは何故だろうか?

 

理由をいくつか考えてみた

 

 

明確に戦い方が変わったから

まあ、一番の理由は間違いなくこれだ。ストライクに乗っていた頃のキラは普通に敵を殺す。一般兵はもちろん、ミゲルやニコル、結果的に生きていたが(は?)バルトフェルドも殺すつもりで攻撃している。その時の「殺したくなんかないのに!」という慟哭は何人もの視聴者の心を打っただろう。

では、どのタイミングで不殺になったかというとフリーダム受領後だろう。

Blu-ray特典での福田監督曰く「相手の戦意を削ぐ戦い方」をするようになった。この「相手の戦意を削ぐ」という言葉をとりあえず覚えておいてほしい。

 

中立的な立場から中途半端に戦争に介入するから

キラの一番賛否両論な点はここだろう。正直不殺なんかどうでもよくなるレベルの問題行動だ。

「SEED」では連合とザフトの戦いを、「DESTINY」ではオーブとザフトの戦いを止めるために三隻同盟という中立的立場からフリーダムを駆り戦争に介入する。「DESTINY」第28話でのキラのこの行動に対しアスランは「お前は戦場を混乱させているだけだ」と叱責する。

しかしキラは「君の言うこともわかるけど」とアスラン正論を受け止めた上でこう返した。

カガリは今泣いているんだ!なのにこの戦闘もこの犠牲も仕方がないことだって、全てオーブとカガリのせいだって、そう言って君は討つのか! 今カガリが守ろうとしているものを! f:id:serimetagross:20231025203042j:image

戦局全体を見据えオーブから離れて正義を貫こうとするアスランと、目の前で失われる命への無念や責任を放棄したアスランに対する今この瞬間の怒りで戦うキラのスタンスの違いがよくわかる。なので「考えもなしに介入してんじゃねえ!」という視聴者やアスランの指摘はごもっともではあるが、私はそんなキラが好きだ。

キラのスタンスを秀逸に皮肉ったのが「AGE」のキオとアッシュなのだが、それはまた次の機会に。

 

 

そもそも本当に不殺なのか?

これに関しては断言は出来ない。「不殺の時もあれば、そうじゃない時もある」以上のことは言えない。

先程の「相手の戦意を削ぐ戦い方」という言葉を思い出して欲しい。言葉のままの行動をキラはしている。武装やメインカメラを狙い相手の機体を機能停止させるのが主な戦法だ。

それで戦意を喪失した相手は逃がし、戦意を失わずに突っ込んでくる相手は殺す気で攻撃する。

フリーダム受領後のキラが殺したネームドは

カラミティガンダム(オルガ)

戦艦多数

プロヴィデンスガンダム(クルーゼ)

デストロイガンダム(ステラ)

そして殺害には至らなかったが

インパルスガンダム(シン)

である。

これらに共通しているのは

・相手の機体性能がフリーダムと互角かそれ以上である

・戦意を絶対に失わない相手である

ということ。

操縦手腕や機体性能で圧倒できる相手は武装やカメラを破壊し戦意を削ぎ、そうではない相手は殺すつもりで戦う。これがキラの戦い方だ。

 

 

まとめ

圧倒的な機体性能と操縦スキルで傲慢とも言える戦い方をするキラに不快感を覚える視聴者は多いかもしれない。そんな人はキラのこの言葉をどうか思い出して欲しい。

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気持ちだけで、いったい何が守れるっていうんだ!

余裕がなくなった時に相手を殺す判断をするのは当たり前である。キラにだって自分の行動が欺瞞であるとわかっている。ガンダムファイトではなく本当の戦争なのだから、大勢の人が死ぬとわかれば舐めた戦い方はできない。思いだけでも、力だけでもダメなのである。

キラは目の前の命を守るために今できる全力を尽くす青臭くも男気溢れる主人公だ。

しかし今度の劇場版ではキラを演じた保志総一朗が「ショックを受けた」「僕はキラという人物をまだ理解しきれていなかった」と言うほど衝撃的なキラの内面が描かれるらしい。「DESTINY」後半から面白みのない戦闘マシーンになり下がってしまったキラが押し殺し続けていた感情もとい「闇」がどう爆発するか。劇場版が本当に楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:もちろん例外はいる。三日月は葛藤などした事もない完全な戦闘マシーンだしスレッタに至っては実戦自体が12話と最終話だけで論ずるに値しない。

*2:フリットはウン10年単位で自己暗示をかけ続けたった一人で苦しんでいた