ロボットアニメにおける「リアル」とは何か。

スーパーロボット大戦というゲームでは「リアル系」と「スーパー系」という区分がある。

しかし「機動戦艦ナデシコ」と「新世紀エヴァンゲリオン」がそのくだらない分類をぶっ壊してくれた。心から感謝しています。

そんな時代になぜ今更リアルさについて論じるのか。それは先日友人と「リアルの定義は人によって違う」という話題になったからだ。

 

 

 

なので私が独断と偏見で「リアルだな」と思ったロボットアニメをいくつか挙げて行こうと思う。

 

 

 

太陽の牙ダグラムf:id:serimetagross:20230606234307j:image

高橋監督自ら「リアルロボット」と称した超エポックメイキングである本作。では具体的に何がリアルだったのか?政治劇や社会構造などリアルなストーリーではある。だがここだけなら後述する長浜ロマンロボシリーズやガンダムシリーズでも十分リアルだ。本作が人気を博したのはそれ以上にロボットの戦闘描写がリアルだからだ。「アルドノア・ゼロ」や「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」など高橋アニメの後追いのようなロボットアニメは数あれどダグラムに並びうるものは一作もないだろう。

なぜならそれらの贋作は実弾で戦う泥臭い戦闘シーンこそ至高だと考えているからだ。アルドノアは露骨にスーパーロボット(ワンオフ機)を、鉄血はビーム兵器を主役機の踏み台にするが、ここでダグラムの主武装を思い出して欲しい。
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ほぼ一撃必殺の威力を誇るリニアガンである。リニアガンとは何かというと「電磁誘導によって熱の塊を弾丸として発射する武器」である。わからない?

じゃあ「ガンダムビームライフルに更に科学的な理屈をつけたもの」だと言えばわかるだろう。

傾斜した装甲には実弾は効きにくいから装甲の上から焼いちゃいましょうねという算段だ。

リアルじゃない*1ビームライフルに細かい理屈をつけたらほら途端リアルになりましたね!

マジンガーZのジェットスクランダーの枠として「ターボザック」がある。これはを取り付けると活動時間が伸びたりリニアガンを連射できたりリニアガンの5倍強いリニアキャノンを撃てるようになる「外部電源」である。近いものだとガンダムSEEDのストライカーパックだ。あとはコンバットアーマーは歩いて移動するのは向かないからトラックやヘリで分解して運搬するとか、とにかく全ての装備に理屈をつけているのがこのダグラムだ。

あんまりダグラムのリニアガンが強いもんだからついに装甲を全部取り外して運動性に特化したキチガイロボットまで出してくる。
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まあ、ダグラムの装甲が頑丈すぎてソルティックの量産機では傷一つ付けられないんですけど…

 

 

 

長浜ロマンロボシリーズ

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長浜ロマンロボシリーズとは長浜忠夫が監督する「超電磁ロボ コン・バトラーV」「超電磁マシーン ボルテスV」「闘将ダイモス」「未来ロボ ダルタニアス」の4作である。特にボルテスは革命ものとして非常に完成度が高いが、今回はあえてダルタニアスを選んで紹介しようと思う。なぜならダルタニアスは戦争そのものよりも戦争によって出た被害描写が非常に丁寧かつ独特だからだ。

ザール帝国の攻撃を受けて壊滅した日本の市場ではサツマイモが7千円、りんごが8千円、バナナが2万円と食料品がとんでもなく値上がりをしていて子供も盗みに走る。ターゲットである小学生ぐらいの視聴者でも「戦争ってマジでクソだよな!」と感じられる描写ができるのは太平洋戦争をリアルタイムで体験した人間だけであり、非常に説得力がある。主食はサツマイモで米はご馳走というのも実際に経験していないと描けない描写だ。

 

 

マジンガーZ

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「えっ!?どこが!?」と思った人もいるだろう。だがそれも仕方ない事だ。何故ならリアルロボットどころかロボットアニメ全体の雛形が本作なのだから。人がロボットを操縦する、という大前提の超初歩的な部分から始まる現在の「常識」が全て詰め込まれているからである。しかしこの作品は今見てもリアルな部分がある。それはロボットアニメとしての「お約束」が定着する前の作品だからである。

意外に思われるかもしれないがマジンガーZに必殺技はない*2。ブレストファイヤーやロケットパンチガンダムビームサーベルビームライフルと同じように「強い武器」なのである。いわゆる「必殺技」を定着させたのはライディーンゴッドバードやゲッタードラゴンのシャインスパークだった。ロボットのエネルギー源が何かを明示したのも、定期的にメンテが必要なのも、リミッター解除もマジンガーZが初だ。ロボットアニメの「当たり前」の先駆者がマジンガーZなのだ。エルガイムのムーバブルフレームだってそうで、現代の「当たり前」は全て昔の天才が考えたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に

現実にダグラムは存在しない。ビームライフルロケットパンチもだ。だがこういった「スーパーな兵器」が「現実に存在したらどうやって使うんだろう?」という思考の元に作られた描写に「リアル」が宿るのだ。*3

ガンダムを分割して運搬する事で「コアスプレンダー」名義にすれば条約の穴を突けるはず!

ロケットパンチを飛ばして落下する人間を救助できるはずだ!

主役ロボット・バルキリーと同じ大きさの巨人が敵ならば人型である理由になるのでは?

民間が強いロボットを持ったら国が独占しようとするに決まってる!

など、こういった「現実にスーパーロボットが存在するとしたら君はどうする?」という思考こそがロボットアニメにおける「リアル」である。思考停止したミリオタが語る浅〜い「リアル」とは絶対に違う。

別に結果的に出来上がったものがツッコミどころ満載な描写だっていい。考えた事自体に意味があるのだから*4。むしろ積極的に突っ込んで次に活かせばいい。そうしてロボットアニメは沢山生まれてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:一応ビームライフルにもかなり理屈はつけられているがミノフスキー粒子という存在しない物質がある前提なので

*2:強いて言うならば大車輪ロケットパンチ

*3:特撮だとシン・シリーズが顕著でいわゆる「お約束」に全力で理屈をつける。これが俺が好きな「リアル」だ

*4:真実に向かおうとする意思